伊藤農園は三浦半島で農業をして400年。三浦でみかん栽培を初めたのも伊藤さんのご先祖。現在は夏にカボチャ、冬にキャベツ、みかんを主に栽培し、その他にも100種類以上の野菜・フルーツを栽培されています。伊藤農園がある三浦半島は三方を海に囲まれ、一年を通じて昼間は温暖で、夜は冷える環境。一日の大きい寒暖差が美味しい野菜・果物を育みます。さらに、潮風が海のミネラル分を畑に運び、美味しい野菜に不可欠な要素を補っています。しかしながら、台風が来たときなどは大変被害が大きく、自然と闘う厳しい一面もあります。
目を閉じて食べたら、栗かさつまいもと間違えてしまうほど、甘味が強いかぼちゃです。このかぼちゃを作っているのは、神奈川県三浦市の伊藤農園、伊藤克己さん。通常着花から30日ほどの栽培で収穫するかぼちゃを、1.5倍の45日間かけて栽培してから収穫しています。この15日間でかぼちゃが熟成され、栗かぼちゃ本来のホクホクの食感が出来上がります。皮まで柔らかく、美味しく食べられます。ホクホクした食感はでんぷん質によるものです。熟度が増すと、でんぷん質が糖質にかわり甘味が増し、ホクホク感が減ります。このような変化は栗やさつまいもに似ています。冷蔵庫で保存すると追熟は遅くなります。お好みで保存方法を分けてください。7月下旬に栗かぼちゃの収穫が終了します。その後に出荷する分は追熟が進んでいますので、ご理解のうえご購入ください。もう一つ、伊藤さんが力を入れているのがプッチィーニという品種。観賞用としても使われる見た目が良いかぼちゃですが、食べても美味しいんです。火を通すとホクホクした果肉に、強い甘み。フライにしても美味しく、デザートにも使えるかぼちゃです。
伊藤さんはかぼちゃを市場にも卸していますが、自らがスーパーの軒先を借りて直売を行います。対面で販売することで、美味しい食べ方やこだわりを紹介しています。直接お客様の声を聞くことによって、より良いかぼちゃを作るモチベーションにもなっています。伊藤さんのかぼちゃは指名で注文されることが多く、直接伊藤農園までかぼちゃを求めて買いに来られる方がいるほど。今では口コミでその美味しさが広がり、日本全国から注文が入ります。
かぼちゃには、完熟状態であることを示す3つのサインがあります。まずは頭頂部の切断面。ここがコルクのように締まって固くなっていること。次に中の種の断面を見ると、種の周辺部にグルッと一周緑の線が入っていること。そして、真っ二つに切った後に、果肉がジワジワと蜜のように出てくる水分(この水分自体は甘くなく渋いです)です。もちろん、伊藤さんのかぼちゃはこの3つを満たしていて、果肉も濃い黄色のもののみです。そして、皮がうすく、中に果肉がぎっしりと詰まっています。
伊藤さんのかぼちゃに注ぐ愛情は尋常ではありません。自分のかぼちゃが100個あったら、右から左に美味しい順番に並べられるほど。それほど1個1個のかぼちゃの状態を把握されています。土壌には、有機質の肥料しか使用していません。即効性の化学肥料は使用せず、じっくりと効いてくる有機肥料のみを使ってかぼちゃを熟成させています。また、無駄な枝は選定して、かぼちゃは整然と並んでいます。こうすることで風通しを良くして、湿気を好むカビによる病気を防ぎ、農薬の使用を最小限にとどめています。驚くべきは1個1個に網をかけていること。中身の良さだけでなく、外観にもこだわる伊藤さんは、傷がつかないように網をかけているのです。その作業たるや、膨大な量になります。そのため、伊藤さんのかぼちゃはほとんどが秀品と呼ばれる最高ランクのものが多く、収穫日によっては秀品率100%の日もあります。味に見た目は関係ないのですが、伊藤さんの愛情はここまで徹底されています。
プッチィーニは、十数年前に種苗会社に紹介されて、栽培を始めた伊藤さんにとっては、新しい試みの品種です。観賞用としては北海道で栽培されていますが、食用としてはまだまだ栽培されている生産者は少ないのが現状です。しかし、伊藤さんは、ちゃんと作ったプッチィーニがホクホクとして甘く、料理としての用途も幅広いことから、その可能性を見出し栽培を続けています。今では、その品質は最高のものが作られていて、直売でも完売してしまうほどの人気です。関東圏のホテルやレストランのシェフが買い求めにやってきて、様々な料理に利用されています。
プッチィーニには、レシピを付けています。その中には、電子レンジで温めたプッチィーニに生クリームやはちみつをかけて、デザート感覚で食べられるものや、グラタンやサラダなど料理として食べるものを掲載しています。写真のフライド・プッチィーニは素揚げしただけのものですが、伊藤さんのプッチィーニの美味しさを楽しむには最適の食べ方です。これは完熟栗かぼちゃも同様です。完熟してホクホクの食感のかぼちゃには、バーベキューのように焼いたものや、素揚げ、てんぷらなどの調理法が最適です。もちろん、煮物にしても美味しいですが、ホクホクゆえに煮崩れしやすいので要注意です。