スロベニア共和国、アドリア海に面した美しい港町「ピラン」。この地で1200年以上にわたり、伝統の塩づくりを守り続けているのが「ピラン塩田」です。塩田を管理するのは、ソリネ社をはじめとした職人たち。彼らは一切の機械を使わず、今もなおすべてを手作業で行い、自然と向き合いながら塩を育てています。

塩田のある湿地帯はラムサール条約に登録された自然保護区域であり、豊富な水鳥や動植物が生息する、まさに自然と共生する場所。その環境の中で、海・風・太陽・土が調和し、代々受け継がれてきた職人の技と共に、唯一無二の塩が生み出されます。ベネチア建築が美しい旧市街と、海と森に囲まれた静かな風景の中で、ピランソルトは悠久の歴史を纏いながら、今も変わらぬ手法で大切に作られています。

ピランソルトの特徴は、その製法にあります。最大の特長は、塩田の床に敷き詰められた「ペトラ」と呼ばれる堆積物。アドリア海の海底から採取されるこのペトラは、にがり成分と微生物を豊富に含み、3年から最長8年の歳月をかけて塩床として育てられます。この層がフィルターの役割を果たし、海水をゆっくりと自然に浄化。風と太陽だけで結晶化させる完全な天日塩ながら、異物の混入が少なく、驚くほど純度の高い結晶が得られるのです。

8月のごく限られた晴天の期間には、表面にうっすらと浮かぶピラミッド型の結晶「フラワーソルト」が現れます。これは天候次第で収穫できないこともある、極めて希少な塩の華。いずれも昔ながらの手作業によって丁寧に収穫され、機械的な処理は一切加えずに仕上げられます。

ピランソルトは、一般的な天日塩とは一線を画す味わいです。その秘密は「ペトラ」の存在と、徹底して自然の力を活かした製法にあります。ペトラの層が雑味を取り除き、豊富なにがり成分を残すことで、塩に含まれるミネラルバランスが絶妙に整います。その結果生まれる味わいは、角がなく、まろやかでありながら、深い旨味とミネラル由来のコクを感じさせ、口に含んだ瞬間にはほのかに甘みすら漂います。

ピランソルトの最高峰に位置するのが「フラワーソルト」。その繊細さと軽やかさが際立ち、加熱による苦味もなく、素材の味を引き立てる魔法のような存在。古くはハプスブルグ家に献上されたというのも頷ける、極上の塩です。上質な塩が生む“味の輪郭”を、ぜひ日々の食卓で体感してください。

ピランソルトの美味しさをもっともシンプルに楽しむなら、生野菜や蒸し野菜へのひと振りが最適です。ビネガーを使わず、フラワーソルトの旨味だけで味わうサラダは、野菜本来の甘みを引き出す驚きの一皿になります。

鶏肉、豚肉、牛肉にフラワーソルトをふりかけて焼き上げてください。お肉の旨みが一段と深まります。新鮮な魚介とライムにフラワーソルトを合わせたマリネもおすすめ。料理のジャンルを問わず、素材の良さを際立たせるピランソルト。ぜひ毎日の食卓に使っていただき、お料理を一層美味しく仕上げてください。